誘熱

イタリアを出発する際に、微熱だったはずの体温が、
明らかに上昇しているのが自分ではっきりと解る。

熱に浮かされている感覚に、
まいったな、と。
口には出さずに、思案していると。

「…馬鹿」

不意に降ってきた声に驚いて、ディーノがその方向を見遣ろうと
視線を上げたのとほぼ同時。

「ぅわ!?」

刹那、彼を襲った浮遊感に、先刻以上に驚いて、
ディーノが大きな声を上げた。

「暴れられたら落っことしそうなんだけど」

だから、じっとしてて、と。
ディーノの耳元で囁くように告げる雲雀は、
言葉の割に軽々とディーノを抱えあげている。

「…恭弥…?」
「体調悪いクセに、どうして無理するの」

ディーノを横抱きにしたままの雲雀の声には、
少なからず苛立ちと心配が含まれていて、まるで叱り付けるような
印象を受ける。

けれど、声色とは相まって、ディーノを抱きかかえている
その腕は、まるで壊れ物を抱えているようにひどく優しい抱擁で。

不調を隠すことを放棄したディーノは甘えるように、
雲雀の胸元にしなだれた。

「……会いたかったから」

素直に、本心を告げると、雲雀がほんの僅かに困ったような笑みを、
口元に刷いた。

「…この状況で、あまり可愛い事言わないでくれる?」

ちゅ、と。
雲雀が、腕の中のディーノの額に口づけて、そう吹き込む。

「別に…」
その雲雀の言葉を否定しようと、口を開くと、
その言葉を奪うように、今度は口唇にキスを落とされた。

「…そういう、弱っているあなたを見ると、欲情する」
「……は…?」

柔らかく触れ、ゆっくりと離れた口唇が紡いだ言葉に、
ディーノは、暫し逡巡し。
言葉の意味を理解した後、慌てたように雲雀を見遣る。

「ねぇ、このまま犯していい?」
「…ヘンタイ」
「…冗談だよ」

恨みがましい目で見上げてくる、その視線を盗み見て。
雲雀は喉の奥で微かに笑いながら、
ディーノを、綺麗に敷かれた布団まで運んだ。