睡余
珍しいものを見つけた。
書庫の唯一の窓から入る光が暖かいと言っていたのは誰だったか。
聞き流していただけで覚えてはいないけれど。
その窓の光がちょうど当たる場所。
おおよそ、想像もつかない人がそこに座って寝息を立てていた。
曰く、変に生真面目で無表情だとか。
酷い神経質だとか。
その光の中、うたた寝している彼とは、あまりに印象が違いすぎた。
片肘で頬杖をつくようにして眠るその寝顔を、何気なく覗き込んでみる。
些かあどけない印象を受けるのは、いつもの眉間の皺が影をひそめているせいかもしれない。
普段の機嫌の悪そうな表情が素顔な訳ではない事を、意外に思った。
不意に肩先に触れた指に、冷たい感覚が宿る。
光は温かいものの、室温は決して温かいと呼べるものではなく。
その場で眠っていれば、身体が冷えるのも当然だ。
「賈栩」
李儒はそのまま見過ごそうかと身を翻しかけたものの。
指先に残る冷たい感覚に引かれるようにして、そっと名を呼ぶ。
身じろぎをするものの、起きている訳ではないらしく。
「…お身体に障りますよ」
再度声を掛けられて、漸く覚醒したようだ。
「…っ…」
何度か目を瞬かせて。
徐々にいつもの表情を取り戻す彼は、何処か気まずそうに視線を外した。
言葉を探しあぐねているようでもあるその態度に、李儒は気づかないフリをして手元を覗き込む。
広げられた書簡はどうやら急ぐようなものでも無く、しかも雑務に近い。
「他の者に任せてしまえばいいものを」
「…性分なもので」
思わず口をついて出た言葉に、賈栩はいつもの眉根を寄せた表情で呟く。
表情や口調こそいつものそれだったものの。
その呟きの言外には居心地が悪いとでいも言いたげな雰囲気を塗していて。
面白い人だと。
敢えて言葉にはせず、李儒は口元だけで笑みを作った。
年末辺りの会話(?)で「この二人のほんわかは想像できない!」のような話をしてまして(笑)。
とか言ってたら会話していた方が素敵な二人を書いてくださったので私も挑戦。そして玉砕。
何だかんだで大好きな二人なんですが。