淡灼熱色素

 

この熱さが嫌だ、と。

明瞭としない頭で考える。

外の気温のせいか、高熱のせいか。

何もしていなくても火照る身体は、じわじわと灼かれるような錯覚。

「…辛い…」

いやに乾いた咳と腫れて熱と痛みを伴う、喉。

横臥している事すら辛く、いっその事このまま気でも失ってしまえばとすら思う。

咳のしすぎなのか、それとも熱の所為かは定かではないけれど。

滲んだ涙のせいで霞んだ視界を遮るように、瞳をゆっくりと閉じた瞬間。

「奉孝殿。入りますね」

扉を叩く音と共に、耳に心地の良い、しかし意外な声が聞こえた。

いつもより声が控えめなのは、眠っていると思っているのだろうか。

返事を待たずに部屋に入って来た気配に、瞳を開ける。

「…長文殿?」

「失礼しました…起こしてしまいましたか?」

「いえ…起きてましたから」

その一言に陳羣はほっと息をつき、しかしすぐに神妙な顔になる。

「…具合は、宜しくなさそうですね…」

相当の高熱だという事は、だるさを通り越して苦しそうな表情や荒い息遣いから窺える。

何よりも、熱があるにも関わらず真っ青な顔色は見ている側の方が心苦しい。

「…それでも、先刻よりは楽ですよ」

薬も飲みましたし、と無理に微笑む郭嘉の表情を見て、陳羣は眉をしかめた。

ともすれば泣きそうな表情に郭嘉は一瞬、笑みを忘れる。

「…御自分の身体くらい、きちんと御自分で管理してください」

そう呟いた声は、心配と不安が入り混じった声で。

「…長文殿…」

声を掛けると、身体を翻された。

微かに聞こえたため息は、心を落ち着かせる為のものかもしれない。

「…水差しを、置きに来たんです。…偶々、手があいたもので」

言いにくそうに告げる言葉に、驚く反面、嬉しいのは確かだった。

「…ありがとうございます…」

自然と零れる言葉。

気のせいか、苦しさが少し和らいだ気すら、してくる。 「…では、これで」

「待ってください…っ」

去ろうとする陳羣の服の裾を、郭嘉は咄嗟にぐ、と引っ張った。

その拍子に、抑えきれずしばらく咳き込むものの、裾を掴んだ手は離さず。

「…何を、やっているんですか…」

声こそ呆れた色だったものの、表情も、反射的に背中をさすっていた掌も、孕んでいるものは労わりと、心配。

「…傍に、いてくれませんか?」

そう郭嘉が呟いた時も、驚きも嫌がりもせず。

「…心細いですか?」

問いかけて、郭嘉の顔を覗きこむ。

「…少しの間でいいですから」

あえて、問いには答えずに、呟いて陳羣の手をとると。

「仕方ないですね…」

ため息混じりに郭嘉の手を握り返し、陳羣はそのまま微笑む。

「おやすみなさい」



苦しくて、熱くて。

解放されたい辛さの中で。

けれど、どうかこのままでと、永遠を願う。



それが。

熱のせいではない事に、もう気付いていた。

だから、今だけは。