忘れられない記憶がある。 もう、随分と前の話だ。 京城に身を寄せていた頃。 少年を、一度だけ抱いた。 無理矢理だった記憶は無い。 けれど、合意の上での行為だった記憶もなくて。 思い出すのは、火照った肌の感触。 涙に濡れた瞳。 怖ろしいほど明るかった、欠けた月。 恨んでいるだろうか。 それとも、覚えてすらいないだろうか。 こんなに、心乱す一夜限りの幻。