恋華
「…なぁ、タケシ」
「なんだ?」
何だか数日前から何か言いたげだった気がしてた。
口を開きかけては、やめて。
あからさまに何か言えずにいるようで。
あえて何もつっこまずにいたのだけど。
やっと言ってくれる気になったらしい。
「…いや、その。なんてゆーか」
「言い淀むなんて、サトシらしくないぞ」
「……あの、さ」
「うん?」
結構な間があった気がする。
「………チョコ、って…どうやって作んの?」
なるほど。と。
消え入りそうな声で紡がれる言葉を聞いてタケシは理解する。
そんな時期か、なんて呟いて。
「作るのか?」
「タケシなら、知ってるよなと思って」
微妙に、話が噛み合わないのは無言の肯定。
「シゲルに?」
「…そんなんじゃなくてっ!!」
何気に問うと、真っ赤になって反論されて。
ついでに、睨まれた。
じゃぁなんなんだ、と意地悪く問うのはやめておく。
何と言うか、微笑ましい。
「わかったわかった。じゃ、まず買出しだな」
男2人でチョコの材料の買出しというのも中々微妙なものだけど。
タケシが慣れた様子でそろえた材料一式と、道具。
喜々としてハートの形のマジパンやらシュガーチップを買おうとするタケシを必死に止めて。
双方何とか妥協して、用意したのはまるで光の粒のようなアラザン。
そして、ラッピングペーパーには淡いグリーンと。
深くて、でも鮮やかな赤い色のリボン。
手慣れたタケシをお手本に、ほとんど見よう見まねでチョコ作り。
失敗分を考えて揃えた材料の減り具合を見て、
タケシが自分の読みは外れてなかったな、なんて苦笑してみたり。
包丁だってろくに持った事がない彼だ。
テンパリングどころか、チョコレートを刻む作業にだって相当悪戦苦闘しているわけで。
それなのに。
作るなんてよっぽど、大切なんだなと思う。
バレンタインという行事も。
彼の事も。
世間体がどうであれ、常識がどうであれ。
そこまで想う方も、そこまで想われる方も幸せなんだろうと考えて。
サトシの手元のボールの中身が。
つやつやとしたなめらかなものになっているのを見て、OKサインをだす。
あとは、型に入れて冷やして固めるだけ。
固まるのを待つ、そわそわ感とか。
待ちきれないじれったさとか。
そんなものを嫌という位感じながらチョコレートが固まるまで待って。
「はい。これ」
そう言ってタケシに差し出されたのは、小さなメッセージカード。
「え」
「一言くらい書いておけばいいじゃないか」
一緒に筆記用具を渡されて。
「……うん」
何を書くか、散々悩んで。
結局綴ったのは、シンプルでストレートな一言だけ。
名前も書かないけれど。
きっとわかってくれる…と信じてる。
あとは、メッセージカードを添えて。
綺麗にラッピングをすれば完成。
ドキドキ、というよりは。
落ち着かなくてしょうがなさそうなサトシの様子は、申し訳ないと思いつつも。
面白い。
「…持っていくんだろ?シゲルの処まで」
タケシが、不意に訊くと。
サトシは、首を横に振る。
「いかない。送るんだ」
「…どうして」
わずかの間沈黙。
言葉を紡ぐのをためらってるようなサトシの顔を覗き込む。
「……会ったら、離れたくなくなるから」
その視線に観念したのか、小さく呟いて。
俯くサトシの表情が、何処かせつなげな色を浮かべる。
その気持ちは、何だかとてもよく理解できるから。
「…そうか」
「うん」
納得するだけに、留めておく。
ずっと一緒にいるという選択肢は、まだ2人には選べない。
…そう、サトシが思っているだけだとは思うけど。
まだ、時間は沢山あるから。
「…メッセージカードには、何て?」
「…別に大したコトは書いてないっ!」
からかうようにタケシが問うと、真っ赤になるのはつまり。恐らく。
「若いっていいな」
「何がだよ!!」
幸せなバレンタインになる事を願って。
早く、2人が一緒になれる日が来ますように。
綺麗にラッピングしたそのチョコレートにキスをするサトシに気づかないふりして。
そう、願う。
遅くなってしまいましたが(汗)。
「六花」のサトシSIDEでした。
れんかです。
全く書く予定はなかったので
サトシSIDEがどうこうとか考えていなかったのですが
友人が書くことを勧めてくれたので…。
何かわけのわからない話になりまして。すみません。
さらに、何だかタケシが主役っぽくなりましたが(汗)。
よければ友人Hに捧げます。
相変わらず別人ですみません(涙)。