moonLit 



夕食も終わって、皆は明日に備えて眠る準備。

サトシも同じく、眠る準備をしようとして。

何気に見上げた空。

ミッドブルーの空に、黄色の月が映える。

いつもよりも少し眩い光を放つ月は、何だか。

空の色とあいまって、月光を受けて進化するというポケモンを思い出させる。

というよりは、むしろ。

連想だろうか、何故かその空はそのポケモンを大切にしている彼自身を思い出させた。

「……シゲル…」

今まで何度、その名を呼んだだろう。

届かない声。

無意識で呟いてしまうその名前は、既に口癖に近いもので。

けれど呟いて後悔する。

返ってこない返事。

実感するごとにせつなさの募る、この気持ち。

ポジティブに考えるのが得意なサトシでも。

時々、思い切り落ち込む事も、ある。

パジャマに着替えるのをやめて、外へ向かう。

眠れない気がした。

外の空気を吸ってこようと呟いて、涙を湛えた瞳をこする。

そのまま靴を履いて、外へと飛び出した。



周りに灯りらしいものもないせいか、とりわけ月光が眩く見えて。

サトシは自分の泊まっている場所から少し離れた所。

緑生い茂る森の近くにあった大きな岩に座り込んで、そんな月を眺めていた。

「……綺麗な月だな…」

呟いて、いつか同じような言葉を聞いた事を思い出す。

あの時ほど、綺麗な丸ではないけれど。

 

「……まさか君が月に関心をもつなんてね」




 





「…ぇ……」


 




突然掛けられた声に、唖然とした。

心地の良いトーンの声色。

聞き慣れた、ボーイソプラノ。

間違える筈が無いのに、聞き間違いだと思い込む。

 


驚きすぎて、ついでに嘘のような出来事が怖くて。

恐る恐る。

スローモーションで。

声のした方向を振り返った 。

その先には、一番会いたかった人の姿があって。

「…久しぶり」

微かな笑みで静かに呟く。

ナチュラルに気取った所は相変わらずで。

「……シゲル……」

幻なんじゃないかと本気で考える。

もしくは、夢なんだと。

思わず、お約束の通り自分の頬を思いっきりつねってみた。

「いっ…ててててて!!」

「…何してんだよ…サトシ…」

加減なんて全く考えずに力任せにつねったせいで、半端じゃない痛さで。

思わず声をあげると、脱力したような呆れたような声が降ってきて。

「……ぅ…夢かと思ったんだよ!」

涙目で思わず大声でがなると。

シゲルが、怪訝な顔をする。

「…夢?」

オウム返しされて我に返った。

何だか、とんでもないコトを口走った気がする。

「……うるさい!」

「…夢だと思ったわけ。なんで?」

たまに。

全部わかってて訊いてるんじゃないかと思う。

実際のトコロはどうなのか、知らないけれど。

「…別に…」

「何でもナイはず、ないよねぇ」

視線で真実を促す。

正直、そういう問い方ってものすごく反則だと思うのだけど。

探るような瞳の色から、目が逸らせなくなるのが自分でわかるから。

「……会いたいなって思ってたらホントに会えたから……」

「……」

「夢か、幻かなって思ったんだよ!」

勢いで告げて、俯く。

顔が熱いのも、赤い事も気づかれないように。

今の情けない顔を見られないように。

けれどシゲルは、そんなサトシにお構いなしで。

近くまで歩み寄って、サトシの隣にゆっくりと座り込む。

「……君は…」

「…な…何だよ…」

「いや…」

先の読めないシゲルの行動に。

微かに怯んだ様子のサトシは、それを隠すようにシゲルを睨めつけて。

その様子にか、もしくはまた違う理由でか。

シゲルはため息ひとつ。

そして、不意に。

サトシの手をとって、指を絡める。

「ちょっ…!?シゲル!?」

慌てた様子のサトシとは逆に。

全く落ち着いた様子のシゲルは更にぎゅ、と強く手を握って。

「…夢かどうかはともかく。…幻なんかじゃないだろ?」

サトシの顔を覗き込んで問う。

「………………うん…」

サトシは思わず、反射的に素直な返事。

シゲルはその様を満足げに眺めて。

ぐいっと。

サトシの頬を両手で左右に引っ張ってみる。

「いたいいたいいたいっ!!」

その声が合図かのように、ぱっと手を離すと。

もちろん、痛さに泣きそうなサトシに睨みつけられて。



不覚にも可愛さにくらりときたのは、ここだけの話。


「痛かった?」

「ったり前だろ!!何すんだよ!!」

「夢じゃない、だろ?」

シゲルが悪戯っぽく肩をすくめて見せる。

「……さっきオレ、自分でやったじゃん…」

「まだ疑ってそうだったから」

「……うん。…だって、何でここにいるんだよ、お前…」

未だ半信半疑のような表情をしているサトシが何だか面白い。

確かに、驚くのは解るけれど。

「…チョコレート、ありがとう」

答えになっていない言葉を囁くように紡いで。

「え…!?」

不意に面喰ったサトシの目の前で、手に持ったカードを、

見せびらかすようにひらひらとかざしてみせる。

「名前くらい書けよ」

「……どうしてわかったんだ?オレのだって…」

「…さあ?どーしてだろうね?」

自分で考えてみたら?と。

嫌味混じりで返すのは照れ隠し。

そして、いわゆる愛情の裏返し。

俯いて、本気で考え込みだしたサトシを前に。

その様があまりにもサトシらしくて、幼くて、可愛くて。

シゲルは思わず微笑みを零したものの。

当然、俯いているサトシには見える事はなく。

気づくこともなく、考え込んでいるサトシが。

やっぱり、どうしても。

どうしようもなく、愛しいなんて。

改めて思った。

 

 

 

何だかとってもアホ話になってしまいました。
すみません…。
一応WD用というかんじでした…。
かなり遅くなってしまいましたが。
色々矛盾だらけです…すみません。
しかも一応この話、続き物です…。