戀想
現状を把握しようと、思考を巡らせる。
後ろ手で扉を閉ざして、ついでに鍵まで掛けられて。
そのまま、距離を詰められた。
さながら、迫られている状態。
鼻先が触れそうな、至近距離。
「…伯言どの」
「何ですか?」
「…これは、どういう」
「想像通りの事態ですよ」
「…はい?」
そう言ってにっこりと笑う彼の意図が掴めずに、思わず問い返すと。
孫桓のその反応を見た陸遜が、声にして笑った。
「ああもう、本当に可愛いなぁ」
さも愛しそうに言って、孫桓をおもむろに抱きしめる。
「ちょっ…伯言どの!?」
驚いて声を上げる、その動揺した様子さえも好きだと思った。
「あなたが好きだって、言ったじゃないですか」
「…聞きました、が…。ケダモノですか、あなたは…」
呆れたように言葉を紡ぐ事すら精一杯の虚勢なのも、知っている。
「何を今更」
「な…」
否定をせずに、寧ろ返事は肯定で。
本気で、この場で彼を如何にかしようなんて思ってはいない。
けれど。
ここまで素直に動揺されると、思わずもっと突き落としたいと。
そんな衝動に駆られるのは事実だ。
降りる沈黙。
口唇に触れる事に違和感の無い距離。
殴られる事も恐らく必至だろう。
嫌われるのは辛いかな、などと、触れるか否か考えていると。
不意に、がちゃん、と扉を開こうとする音が響く。
鍵が掛かっている事に気付いて、身を引いたようだった。
再度扉を開こうと試みる様子はない。
「伯言どの、いますね?」
代わりに、扉の外から聞こえたのは良く知っている声。
「はい」
「孫権さまがお待ちです」
「…解りました」
軽いため息を一つ。
ゆっくりと吐いて、孫桓から離れる。
そのまま陸遜が鍵を外して扉を開けると、意地悪気な表情の朱然と目が合った。
「…少し冷静になっては如何ですか」
「…悪趣味な…。聞いていたんですか」
「心外な。聞こえたんです」
そして、未だに呆けた顔をしている孫桓を見て朱然がにこりと笑う。
「殴ってしまえばよかったのに」
「……悪趣味だ」
呟く言葉が、盗み聞いていた朱然に対してなのか、
それとも陸遜に対してなのか窺い知れなかったけれど。
朱の走る表情に、彼の想いが見て取れて。
朱然は、本人が気付くまでは黙って見ていようと、そう思った。
実はこれが大戦で一番最初に書き始めた話でした…(汗)。