戀空

晴れ渡った空。
雨の上がった後とは思えない程の澄んだ空に、理由はないけれど嬉しくなる。
「晴れましたね」
偶然通りかかった陸遜が、外を眺める孫桓を見止めて声を掛けた。
突然声を掛けられて、一瞬驚いたような顔をした孫桓は。
声の主が陸遜だと知って、安堵したようだった。
「…本当に」
そう言って、どこか嬉しそうに微笑む。
滅多に見ることの出来ない、綺麗な笑みに思わず見惚れてしまいそうになった。
いつも何処か冷静そうな顔を見せている彼は。
ただ、感情を表に出すのが得意ではないのだと。
そう気づいたのは、いつからだっただろう。

彼に目を奪われるようになってから、彼を追い続けている。
自覚した頃には深く深く嵌っていた。

「…好きなんです」
「え、」

言葉にするつもりは無かった。
無意識のうちに呟くと、怪訝な顔で振り返られる。
何の話だ、と言いたげな。
「…雨上がりの青空が」
「あぁ、確かに」
咄嗟に零れた嘘に、それでも孫桓は納得したようで。
けれど。
一度口にしてしまうと、何故か。
余計募る。実感する。
当たり前のように抑えてきた筈なのに、抑えるのが難しくなる。
折角ついた嘘も、ふいにしてしまうけれど。
「それと」
そう切り出して。
改まって孫桓を見遣ると、彼も陸遜を瞳に映した。
「あなたが」
「……はい?」
しばらくの無言の時間。
頭の中で言われた言葉を反芻していたらしい孫桓が、彼らしくない呆けた声を出す。
その反応が、余りに可愛くて。
「本当に…」
可愛い、とは声にせず。
その代わり、未だ呆然としている孫桓ににっこりと微笑みかけて。
「欲しいモノは手に入れる主義なんです。…だから」
堕ちてくださいね、と。
すれ違いざま、囁く。

項までを染め上げている朱が、空の青よりもずっと印象的だった。