焼き爛れるのは、自己と理性。
情炎の恐ろしさを、身を以って知る。

邪気払いの薬酒と偽った毒薬は。
見破られ、劉弁の手に渡る事はなく。
拒む口唇に、無理矢理流し込もうと彼を押さえ付けた。
飲む素振りを見せないようなら、口移しという手段を使ってでも。
劉弁の瞳から涙が零れる様子さえ、どこか遠い出来事だった。
暴れる身体を一度柱に叩きつけると、痛そうな呻き声を上げて暴れるのを止める。
「…炎に、身を滅ぼされたな」
不意に。
震える声で、小さな音で。
劉弁は哀れむような瞳で李儒を見遣って、そう呟く。
諦めの表情と、憐憫を湛えた瞳。
言葉の真意を汲み取れずに。
眉を顰めた李儒の手から、毒薬をそっと受け取った。
「何を…」
盃を取り返そうとする李儒よりほんの少し早く。
劉弁は震えたまま、蒼白な指を絡めた盃を干した。
取り落とした盃が、耳障りなほど大きな音を立てて床に転がり。
その後、刹那の沈黙が降りる。
思わぬ光景に呆然としていると、不意に劉弁が激しく噎せ返って。
絶叫ともつかぬ声と苦痛に歪む表情。
まるで、幻影を見ているかのように現実味を帯びない目の前の惨劇。
ただ、じっと傍らに立つ李儒に、劉弁は。
「…後悔するが良い」
苦痛に喘ぐ合間に、そう囁いて。
やがて、糸が切れたかのように静止した。

恐ろしいのは、情炎。
身を滅ぼされた事に気づくのは、己が焼け爛れた後。

たった今息絶えた彼は、全て気づいていたというのか。
情炎に呑まれ、ただその為だけに動いている事にすら。

「後悔だと?」
…笑わせる。

情炎に全てを呑まれた今。
ただ、傀儡であればいいとさえ思う。
ただ、彼だけの為に存在している泡影でいい。







李…儒??
苦情受け付けてます(苦笑)。