遑日
さらさらとして柔らかくて。
それ故に結いにくそうな黒髪を纏め上げる。
纏めきれずさらりと指をすり抜ける毛束に、司馬昭が思わず笑った。
「…兄上って、案外不器用ですよね…」
「…お前の髪が纏めにくいんだ」
憮然とした声色の司馬師の言葉が、幼子の言い訳のようで可愛いと思う。
「好きです、兄上に髪を触られるの。…気持ち良い」
言葉に違わず気持ち良さそうに呟いて、そっと目を閉じて。
暫く、その手の感触に酔いしれた後。
でも、と微かに呟くと。
おもむろに、司馬昭は兄へと向き直った。
緩く束ねていた髪が司馬師の手を離れて、肩口を滑り落ちる。
「昭…こちらを向いていては結えん」
困ったような表情をしてみせる兄に、悪戯っぽく笑った司馬昭が抱きついた。
「今日はこのままで。…どうせ、すぐ崩れてしまいますから」
甘えるように擦り寄って、司馬師の腕におさまると。
上目遣いで目線を合わせ、視線で口づけをせがむ。
差し込む朝の光に、背徳感と倒錯感を覚えながら、
ゆっくりと目を閉じる、司馬昭の口唇に自分の口唇を重ねた。
慣れ過ぎたこの感触が、心地良くてたまらない。