風雅
「幸せ、とは」 「はい」 「…難しいものだな」 独り言のような、周瑜の言葉に刹那、面喰う。 「何か、悩みでも?」 「…いや。ふと思っただけだ」 気にするな、と。 呟いて、一度上げた目線を書簡へと戻した。 「…あなたが言う幸せは、この国の幸せですか?」 「…当然だ」 それだけではない癖に、と。 口に出そうとして、止めた。 その代わり、魯粛は、不意にすぐ横の窓を開け放つ。 青い空と緑の匂い。 やけに涼しい風がふわっと舞い込んで、髪を揺らした。 突然の魯粛の行動に怪訝な表情をする周瑜に、にっこりと微笑み。 ついで、彼の手から書簡を取り上げた。 「…四六時中難い顔をしている人に、幸せは寄ってきませんよ」 「…何を」 知っている。 彼が、ここ最近ずっと閉じこもりっきりだという事を。 「少し、外の風に当たりに行きましょうよ」 そう言って、魯粛は周瑜の腕を、無理矢理引っ張って席を立たせる。 その、彼の強引さが心地良くて。 つい、為すがままになる。 今日は、彼の言葉に甘んじて従うことにした。 |