偏愛
「玉璽が狙いなら、玉璽で誘き出すまでのこと」 「ほう…?」 「…囮に使えば、玉璽に惹かれた者が必ずやって参ります」 曹操に進言する張遼の声色は、驚く程に淡々としていて。 しかし、その中にも何処か面白そうな雰囲気が含まれている事に気付き、 曹仁は心の中で舌打ちした。 理由なら、解っている。 興味があるのだ。 彼ら、というよりは。 彼自身に。 「…俺が仕留めに行ってもいいよなぁ?」 軽口の割に、有無を言わせぬ口調で曹仁が告げる。 「…接触した後、援護に参ろう」 「必要ねぇよ、そんなもん」 苛立ち混じりの言葉。 余裕をまとうはずだった、その言葉は。 自分でも笑いたくなる位にあからさまで。 ただ、苛立ちだけが募るのを感じる。 曹仁は、踵を返すと。 振り返りもせずにその場を去った。 |